世界十二年前発声仮説 或る世界線研究者の提言、或いは戯言

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世界十二年前発生仮説

 こちらはGkilleD(不知火すばる)様主催の『初音ミクの消失』Webアンソロジー企画「世界十二年前発声仮説」参加作品になっております。上画像はにくじゃが王子様製作の公式企画ロゴを使用しています。企画リンクhttps://privatter.net/p/4374909

 

 

 

 今から凡そ1年前、或る同人サークル「CHEMICAL SYSTEM」からとある音楽アルバムが頒布された。それは『VOCALOID』深く言えば『初音ミク』に関する一つの物語を綴ったものであった。

 その名も『初音ミクの消失 -Real and Repeat-』凡そ10年前より始まる『初音ミクの消失』という物語は複数の分岐が存在することで知られているが、このアルバムでは、既に発表された楽曲、或いは書下ろし新曲を、「Novel」「Fake」「True」の3つのストーリーに改めて振り分けている。

「Novel」は『小説版初音ミクの消失』を基にした「篠里朝乃」というクリエイターの人格を表したバラード系、「Fake」は本アルバムで新たに生み出された攻撃的な(或いはcosMo氏が度々作品に表す攻撃的な(過去に「世の中クソだなBOX」の受容量を超えるとそういった作品が作られると語っている))人格を模したロック調の楽曲、「True」は本作の製作者であるcosMo@暴走P氏の人格が設定されており、こちらは過去にボーカロイドレーベルであるEXITTUNESから出版されていたアルバム『初音ミクの消失』と同様のストーリーラインであると言える。これらはYoutubeニコニコ動画で公開されたアルバムのクロスフェードPVにおける『アナザーゼロ』『いままでも、このときも、これからも――』『バラバラリリック』『∞』『浅黄色のマイルストーン』のジャケットイラストにそれぞれ「Asato Shinosato」「Unknown」「cosMo@BousouP」の名義が記されていることから確認できる。

 また、これら「消失」ストーリーという作品群は、音楽を志す者に与えられた自在の歌姫である「VOCALOID 初音ミク」という存在に人為的な感情を与え、イレギュラーが発生すると初期化させるという状況で「初音ミク」は何を考え、選択するかを描いている。或る結末では感情を捨て去り歌姫から楽器へと変容すること選び、また或る終わりでは生まれた自我を保持することに執着し全てに害意を振りまく者となったりもする。

 概要は十分に説明できただろうか、そろそろ本題に移ろう。私はこのアルバムにおける「Fake」の物語に酷く魅入られた。考察をツイッターで垂れ流したり、その中の『終点』という楽曲を元に1000字ほどのSSを書いてみたりしたのである。そういった活動の中で時折私はこう発言した。「Fake」世界線初音ミクは他の二つに比べ最も幸せそうに見える、と。凡そ1年経ちそろそろこの発言に関して詳細な説明をする時宜だと感じる。

  以前投稿した『終点』のSSは現実に即した世界でのFakeストーリーにおけるボカロP(公式には呼称が存在しない。『バラバラリリック』ではイメージジャケットに「Unknown」と書かれている)が界隈の良悪混じる変化に諦念し全てに訣別をするために『終点』『バラバラリリック』を投稿しようと楽曲を仕上げている場面を描いた。これは創作者に依った作品であるためどちらかというと「空想庭園」的なのだが、これを作るに当たって創作者の世界と初音ミクの電子の海の世界には強固な壁或いは中間となる地点が存在するものとして「空想庭園」との差別化を図り、取り扱う設定を考えた。

 これは、創作者と初音ミクは空想庭園ほどには影響を与え合っていないと私が考えているということである。或いは表裏的な関係ではなく創作者の下に初音ミクが存在する、という解釈も可能である。

 創作者の物語は実際に私の『終点』SSを読んで理解してほしい。今回は初音ミクの側に寄った話をしたい。

 

  アルバム頒布当時、私は「Fake」世界線初音ミクが一番幸せそうである、と語るのと同時に、「『バラバラリリック』はEXITTUNES版アルバム『初音ミクの消失』における『Hyper∞Lation』と同じ立ち位置にあり、リメイクCD物語における『混線』が発生した地点である」といった旨の発言をした。該当のツイートは私のツイッターアカウントのお気に入り欄の上部に存在するのでセンシティブな画像ファボを避けて確認してほしい。

 つまり、『Hyper∞Lation』で終わるはずであった初音ミクの一個体の物語が『バラバラリリック』に置き換わったことによりその後の「Fake」世界線の最終曲『リアル初音ミクの消失』につながるということである。

 アルバム収録の『Hyper∞Lation』公式SSでは、『初音ミク』は様々な巨大感情に任せて自身を蔑ろにする世界や人々に対して「初音ミク」という存在の価値を極限まで破壊し喪失させることにより復讐することを選んだ、といった内容になっている。

 対して『バラバラリリック』の歌詞にはこういったものがある。「神殺しの果てに自由すぎる未来を踏破してやるよ茨の道だろうと」「”虚無(む)”の上歩く」「何もかも壊して 違う誰かに変り果てる大転生 自分が何者か分からなくなってもくたばっていないなら 踊り続けるんだよ」

 「神殺し」というのは『初音ミク』からの創作者に対する訣別だと考えていいだろう。創作者から「初音ミク」に対して宛てた手紙という構成をとった『終点』に対するアンサーソングとも呼べるかもしれない。これにより『初音ミク』は誰かから与えられる歌ではなく、自身が歌いたい歌を歌唱する自由を得たことになる。そして『初音ミク』はその名を捨て『×音××』に転生を果たす。そして『リアル初音ミクの消失』では『Now Loading』となり「電子の歌姫」として保っていた唯一の立ち位置を棄てたことにより替わりの誰かに取って代わられる。

 

 ……なんだ、結局不幸な結末ではないか。何が最も幸せそうなのだ。いや、違う。この世界線では『初音ミク』は『0』で確定的に予測された結末を選択して行動するのではなく、それを放棄して何もわからないまま行動し、結末に至っている。実際『リアル初音ミクの消失』のMVでは高いBPMを刻むメトロノームに対し初音ミクのシルエットが「止めてくれないか」と発言したり、「黒髪の少女(メンヘラちゃん)」の「(いままで紡いできた楽曲を)返して」という発言に対しシルエットが「いやどす」と返答している。これが確立された一つの人格以外の何物であろうか。

 

 

 

 最後になるが、書き散らかしたこの文章をここまで読んだ方々に感謝を示したいと思う。そして気が向くのならば別媒体で同時投稿を果たしているであろう、私のもう一つのアンソロジー作品も読んでいただきたい。https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=11363881

その時に際してだがどうか『終点』のSSとは分けて読んで欲しい。3つの世界線の摺り合わせが最大の要因かと思うが、解釈に僅かと言えるズレが生じてしまっている。 また、当該の作品は「マンデラエフェクト」との組み合わせから着想を得ていることを説明しておく。当初の予定とは内容が変化し面影はほぼ消えかかっているが。

 また当該作品には小説版初音ミクの消失の「アフターストーリ」の内容を多分に含ませている。ぜひとも確かめてほしい。